樋口さんのいう通り、3.11の影響を受けていない人はいないように私も思います。戦前と戦後があるように今や震災前と震災後があって、震災後の私たちには、何を正しいとするのか曖昧にせずに、自分なりの答えを持つことが求められているのだと感じるようになりました。そして、間違っていると思うものに対して、見なかったふりをするのか、向き合うのかということも。
自分の答えを探すために、虚飾を削ぎ落とした芯のところにある真実が見たいと思っています。良いことも悪いことも、その間にあることもすべてを見て、本当のことが知りたい、真実に近づいていきたいと。それは、崖の淵に立つようなことだと思うのです。崖の淵に立って底を覗き込みたい、けれど同時に頭の上の空も見たい、というのが私の望みなのです。そして両方を同時に見るためには、やはり崖の淵に立つしかないのだろうと考えています。崖の淵で風に押されて落ちそうであっても、両方を見るために一人そこに立つことは、絵を描くことと似ています。強さも弱さも同じように目の前に並べて、どちらも受け入れる覚悟を持ちたいと思います。