tomoko hashimoto


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クインテットV ―五つ星の作家たち カタログ
発行:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 2017



 
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橋本トモコ  

 あまりに嫌なニュースが多いので、ずっと遠い未来を考える。人間が地球を使い尽くして、人類が滅びた後のことだ。人類の時代はきっと、恐竜時代のように長くは続かないだろう。人類の後には虫の時代がくるという話しを聞いた。私は想像してみる。遠いいつか、地球は自浄作用でよみがえり、植物が生え、海が光っている。澄んだ空に羽虫が飛び、大地には無数の甲虫が蠢く。現実逃避のようで前向きとは言えないかも知れないけれど、心が萎えるニュースの後にこのような想像が頭をかすめると、ふと救われたような気になるから不思議だ。

 虫の時代の話しは、途方もない空想のようでも、ゼロから生まれた想像ではない。地球の歴史があるから想像できる人類時代の続きの話しだ。昨日の続きを考えること、次の一手を考えること、それが想像の力だ。絶望するようなニュースを前に、解決策など分かるわけもないけれど、そこにいる人々の気持ちを想像することはできる。テレビの向こうにいる人々の気持ちを想像するために、それまでの背景を知り、現状を知る。より具体的に想像するためには情報を得る努力が必要で、それから、真剣に想像する。目の前の友人の気持ちを想像するように。想像するだけでは世界は変わらないが、想像することができなければ、何も始まらないと思う。

 制作することは想像の連続だ。展示風景を想像し、そこにある作品を想像し、画材を考え、色を想像して、絵具を選び、描き重ねる。選んだ絵具で想像した色が出ない時は、また想像し直して、違う色の絵具を重ねる。そして、それを繰り返す。さらに展示風景は、その時が来るまで実際に見ることはできないから、その空間での他の展示を見たり、空間のサイズを計ったり、模型を作ったり、できる限りの情報を集めてから、今までのあらゆる経験を総動員して頭の中に思い浮かべる。たとえ想像が追いつかなくても、あきらめずに、また想像する。それしかないのだ。




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