橋本トモコ

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分かち合う景色から

「鑑賞者と景色を共有したい」という橋本トモコさんの言葉が心に残ります。この思いを抱きながら制作する橋本さんは、どのような景色を想像し、みる者とどのように共有されたかを、今回行われた「千葉市民ギャラリー・いなげ」での個展を通して考えてみたいと思います。

 橋本さんは、身近にある草花やくだものを「油絵」で描きます。描かれた花や果実は、写真では鮮やかで陰影のない色彩から、平面的な印象を与えるかもしれませんが、実物の絵肌は、堅牢でとても深みがあります。この深みを出すために、古典的な油彩技法を用いています。平滑な下地づくりから始まり、透明度の高い油絵具を何層にも塗り重ねていくことで、奥深い表現が可能になるのです。こうして描かれた花や果実は、生き生きとした生命を得て、タブローを超え、そこから抜け出た葉やつぼみと共に一体となって構成されます。イメージは広がり、空間全体を作品として捉えることができます。こうした展示方法は、空間や状況を無視して作品は成り立たないという橋本さんの思いの表れではないでしょうか。そして、その思いは、みる者へとつながっていきます。

 ギャラリー・いなげは、昔社員寮だったアパートを改装した施設です。かつての部屋の間取りや大きな窓、ベランダがあるなど、どこか生活感のある展示空間となっています。橋本さんは、この展示室(3室)を入念に観察、採寸して、最終的に新作6点を含む計13点の作品を展示することとしました。最も広く、天井も高い最初の部屋は、梁に椿の葉が舞い散るように配置することで、天窓から注ぐ光に視線を誘いました。そして、花や実をたくさんつけた作品が並び、華やかで動きのある空間となりました。続いて、窓の外に味気ない壁面が見える第二室には、ツルやタネの形がユニークな朝顔の作品を配することで、部屋のクセを生かし、より豊かな空間になりました。最後の部屋には、新しいモチーフである「水」を描いた作品が並びます。この<どこへも帰らない−江戸川>が、目線よりもあえて低い位置に掛けられ、まるで川面を見下ろしているような感覚になります。また、ギャラリーの敷地内にある「旧神谷伝兵衛稲毛別荘」の和室の床の間にも<透明な土−椿>が置かれました。同別荘に活けられたサザンカに合わせ展示するという粋な計らいです。
 さらに、今回の展覧会タイトルにもあるように、外光の変化にも意識を向けて空間を構成しています。晴れた日の昼間には、庭園の池の水面の反射が作品に映り込み、雨や曇りの日には静けさが漂い、外が暗くなると作品だけが浮き出てくるようでした。大雪となった最終日には、白銀の庭園と展示室の白い壁とが一体となり、まさに「白い光」という言葉がふさわしい景色となりました。

 本展は、橋本さんの作品をよく知る方に限らず、日頃よりギャラリーの制作室・展示室を利用している地域の皆さんや庭園の散歩に来る方がたくさん訪れました。趣味の絵画サークルで絵を学ぶ方は、筆あとや照りのない油絵の技法に、大変刺激を受けていました。また、意味を超えて視覚的に訴える作品に、子どもたちも釘付けになり、「きれい!」「これが好き」「さみしい」など素直な声もありました。ふと一人で訪れた方は、展示室内を何度も往復され、空間全体の心地よさを味わっているようにも見えました。

 様々な人々を魅了する理由の一つには、橋本さんの美術に対する関心の幅広さがあると考えられます。橋本さんは、古典から現代に至る美術史の縦軸と、東洋/西洋や絵画/彫刻/工芸/インスタレーションなどあらゆるジャンルの横軸、そのすべてを見ていてこそ美術はおもしろいと言います。先人たちへの敬意の感じられる油彩技法、空間の余白を活かした日本美術に通じる展示、タブローを超えた現代的な表現など…その魅力は、美を総合するバランス感覚にあると思います。
 こうした一つの型にはまらない橋本さんの作品は、絵画やインスタレーションという言葉よりも「景色」という言葉がしっくりくると、展覧会を終えた今感じています。「鑑賞者と景色を共有したい」という橋本さんの思いが、この住宅地の一角にある小さなギャラリーで、地域の方や子どもたちに強い印象と大きな感動を与え、そして伝わったことを確信しました。

 

 

行木弥生(千葉市民ギャラリー・いなげ学芸員)
 橋本トモコ 白い光、落ちる闇カタログ
2014年3月
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