橋本トモコ

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空から舞い降りてきたかのように、白い壁の上に忽然と出現した美の結晶。橋本の描く不思議なリンゴやミカンやイチゴたち、椿や朝顔の花や葉っぱを前にすると、これらは一体どこからやってきたのだろうと不思議な思いにとらわれる。作者が気の遠くなるほど時間をかけ、労力を注ぎ込んだことを知ってはいても、それらは、努力の痕跡も自己主張も、作者の存在すら感じさせない。まるでそこに棲息しているかのように周囲の空間と調和し合い、目に見えない微小な色の粒子を周囲に浸透させ、空間全体を心地よいものに変貌させている。
先ほど果物や花の名を挙げたが、その描写には陰影がない。固有の色と形はあるが、立体感はなく、平面的・抽象的な記号として存在する。だからといって平板で無機的かというと、そんなことは全くない。むしろ深みのある不思議な色面の中に眼が吸い込まれる。それは作者が古典的な油彩技法を頑なに守り通しているせいである。
橋本は、木製パネルに綿布を膠で貼り、白亜地を塗り重ねて研磨し、その下地の上に透明度の高い油絵の具を薄く何層にも塗り重ねて、深みのある色を出している。この古典技法を徹底的に追及することで、現代作家にはまれに見る堅牢な絵肌と深みのある艶を生み出しているのである。自然の事物の単純で力強い形を借りながら、この作家は静謐で揺るぎのない絵画空間を構築し、周囲の空間の中に溶け込む美しい物体を出現させているといえようか。

 
占部敏子(滋賀県立近代美術館学芸員)
 VOCA展2009カタログ
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