リンゴやイチゴ、オレンジ、ブドウなど見慣れた果物を題材に選ぶのは、極端に言うと題材など何でもいいからだ。描かれているものがいったい何なのか?見る側に、そうしたことにあれこれ悩んでほしくないと橋本さんは言う。
どう描いたのか?あるいは個々のモチーフではなく、平たい画面を、その全体をどれだけ新鮮な空間に生まれ変わらせることができたのか?
説明が要らないくらいに誰もが知っている題材のほうが、変化や差異に気づきやすいからとも話す。
1969年生まれで、「現代日本美術展」などこれまで多くのコンクール、グループ展に出品を重ねた。目下、今月下旬に始まる8回目の個展に向けて昼夜を問わず絵筆を握る。題材に選んだのはツバキ、それも真っ赤なツバキの花だ。そのなかの1点が、縦横2メートル近い大作の《ツバキ赤く》だ。
リンゴやオレンジなどと同様に、ツバキは日本人になじみが深い。古くから絵に多く描かれ、「椿赤く酔えばますます赤し」(種田山頭火)、「赤い椿白い椿と落ちにけり」(河東碧梧桐)など俳句にもしばしば詠まれている。題材にツバキを選んだとき、ふとそうした絵や句が頭に浮かびもした。
だがすでに触れたように、ツバキに特別な思いはない。絵や句に描かれたイメージとも無縁だと言う。ツバキの花を借りて、自分だけの造形を、新鮮な空間を創造できたらと願う。
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