2年前の冬、私はビルスリバーのほとりにいた。ビルスリバーは、スイス・バーゼルを流れる小さな川で、ドイツとの国境、ライン川に流れ込む。滞在場所から自転車でビルスリバーまで行き、ほとりに停め、川沿いの小道を歩いた。Google Mapを見ながら前日の最終地点まで自転車を走らせて、そこからまた、昨日の続きを歩く。そうして少しずつ、街を離れ、住宅街を抜けて、森の中を上って行く。枯れ木の間から息を呑むような美しい川が見える。まるでオフィーリアが浮かぶ絵のような、そんな川が本当にあるのだ。
鼻の奥が痛くなるような冷たい空気と、頭がしびれるような孤独と自由。眼前に広がる川のイエロー、グリーン、ブルー。
川を歩きながら考える。やがて、オフィーリアも底に沈み、水に溶けていくだろう。私も、そこにあるものもすべて、
いつかは朽ちて、水となっていく。水は大地に深く沈み、川になり海になり雨になって、私の知らない命に降りそそぐ。